【書評】GE 巨人の復活(中田敦著、日経BP社)

献本頂きました。日経BPシリコンバレー支局長が製造業回帰を推し進めるGEのシリコンバレー流改革を追いかけた一冊。

GE 巨人の復活

GE 巨人の復活

リーンスタートアップとデザイン思考という、著者がシリコンバレー流ビジネス開発の根幹だと考える2つの「ツール」を軸に、歴史ある超巨大企業GEがシリコンバレーのどの部分を見習い、経営陣から率先して学び、全社的な改革を進めているか、数年に渡って追いかけている著者にしか書けないだろう内容。シリコンバレー近くに全社横串のソフトウェアを開発するGEデジタルのオフィスを設けて2000人以上のソフトウェアエンジニアを集め本気でGE Predixを開発し、実際にどのような成果が出始めているのかが、これまでの著者のGE関連記事全てをまとめるような形で網羅されている。

Predix本体の技術的な詳細や、GEデジタルCEOのBill Ruhインタビューなどは昨年の日経コンピュータ9月号特集「答えはGEにあり」に詳しいので、興味を持たれた方は会社の書庫でバックナンバーを漁ると良いかもしれない。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/ncd/14/379410/082200056/

GEといえば、2013年にO'Reillyが出しているIndustrial Internetの本を読んで「(まだIndustry 4.0やIoTのトレンドが来る前だったのに)随分と先進的で具体的な取り組みが進んでいるな」と思ったものだった。本書によれば、それはIBMが2000年代に行ったSmarter Planet戦略や、GoogleAppleなどのシリコンバレーの企業のやり方が脅威に見えたのも大きな理由で、やがて彼らに本業を脅かされるくらいならいっそ本気で「ソフトウェア中心のデジタル革命」を自前でやる決断を早々とイメルトCEOが下していたからでは、と述べられている。

http://www.oreilly.com/data/free/industrial-internet.csp

ところで本書を語る上で、なんと発売日に前後してイメルトCEOの引退と次期CEO就任のニュースがあったことについても触れないわけにはいかないだろう。それら報道では、イメルトCEOが旗を振る上記改革が機関投資家等から評価されず、そのプレッシャーにより辞任に至ったという論調がほとんどだった(就任年数や年齢からいってもそろそろ交代時期という観測は以前あったが)。実際、次期CEOはもうすぐ売却されるGEキャピタルを長く経験し、GEデジタルとは距離がありそうなGEヘルスケア(本書でもあまり登場しない)でCEOを勤めていたフラナリー氏。また、GEデジタルが狙ったほど上手くいってないという噂はサンフランシスコ周辺にいると聞こえてくる。一方、GEの抱えるパワー(発電)、アビエーション(航空機エンジン)やオイル&ガスなどの製品ライフサイクルを考えると、まだ答えを出すのは時期尚早のような気もする。

そんな状況で本書から学べるものはなんだろうか。著者が「読んだ皆さんからとても好評」と言うあとがきに、実はアツい思い込められていた。

「正直に言えば筆者は、グーグルをはじめとするシリコンバレー企業のことが好きではない。」

出版社の一員としてシリコンバレー(や米国西海岸)企業の侵攻に苦しめられてきた経験があるからこそ、無批判に持ち上げるよりも、その恐ろしさに対する警鐘を鳴らすべく、志願してシリコンバレー支局に身を置いて彼らを追いかけ続けているのだという。

「GEのデジタル改革は、そうしたシリコンバレーの脅威に対する回答の一つだと言える。」

私の解釈では、本書は「シリコンバレー流は誰でも簡単にマネできるもので、おかげでGEも復活しました」という気楽な成功事例を描いているのではない。「あのGEですら、苦しみを味わいながら自らを変えて、今後も繁栄するために取り込もうとしているシリコンバレーのやり方から、貴方は学ぼうとしますか、それとも関係ないと距離を置いて無視し続けますか」と、GEの大きな賭けを題材に、問いかけているのだ。

私はこれらあとがきを序文に持っていっても良かった思うが、そうでなくても通読したあと本文を読み返すとまた違う発見がありそうだ。